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職業としての翻訳について

職業としての翻訳について語ろうとするとき、翻訳者の収入、翻訳者になる方法などの外形的な問いに答えないわけにはいかない。つまり、収入を得る手段として考えたときに、翻訳がどのような状況にあるのかを論じないわけにはいかない。いいかえれば、翻訳の市場を、需要、供給、価格といった観点から分析していくことが欠かせない。翻訳とは何かについての見方が大きく分かれているように、収入を得る手段としての翻訳についての見方も大きく分かれている。翻訳はしょせん気楽な副業だとする見方があり、この見方に立つなら、職業としての翻訳などと大上段に構えるのは滑稽でしがないかも知れない。こうした見方を代表するのが、「あなたも翻訳家になれる」という宣伝文句だろう。「君なら」でも「あなたしか」でもなく、「あなたも」なのだ。大きな書店に行けば何点も並んでいる翻訳入門書の大部分は、この観点から書かれている。もう一方には翻訳は一生をかけた職業として取り組むべきものであり、それに相応しい収入が得られるべきものだとする見方がある。こうした観点に立つなら、翻訳の市場についても「あなたも翻訳家になれる」式の入門書とはまったく違った面がみえてくる。翻訳は隙間産業であり、蛸壷産業だとすらいわれている。全員が集まって取引する大きな市場があるわけではないし、業界団体や業界誌すらないにひとしい。翻訳者や翻訳会社はそれぞれ独自の隙間市場で活動しており、同業者との付き合いがほとんどないまま蛸壷に閉じこもって活動していることも少なくない。このため、翻訳市場については、統計らしい統計はない。市場の全体像をしっかりした数値でとらえることはできない。